動物の心理指導です。
けれど調教とかしつけ、といった話ではありません。
これはなんと、ヒツジの難産の心理指導です。
ある日ヒツジのナニーが産気づきました。
横たわったまま苦しむナニー。
シートンは兄と二人で先輩開拓農民テリーに相談に行きます。
「そんな時はな、あんたがた二人で前と後ろにわかれて、雌ヒツジの前足と後ろ足をしっかり押さえるんだ。前足は肘のところ、後ろ足は膝のところでな。そして、そっとひざまずかせるようにして、体を立ててあげるといい。あとは、次の陣痛がくるのを待つ。それだけでいい」
そのとおり、無事に生まれ、ナニーをたたえて水をたっぷり飲ませ、子ヒツジの体もきれいにふいてあげました。
一時間ほどして雌ヒツジは立てるようになり、さらに一時間して子ヒツジも立ち上がりました。
子ヒツジは母ヒツジに近づき、首を伸ばして鼻先で触れようとしました。若い母ヒツジが喜んで乳を飲ませるだろうと思いましたが、意外にも子ヒツジを軽くける仕草をして、子ヒツジから離れていってしまいました。母ヒツジはそれっきり子ヒツジに関心を寄せません。またしても緊急事態です。
シートンは再びテリーに教えを請いに向かいます。
「あんたがた子ヒツジに触ったんじゃないのかい?」
「はい、そうしました。みんなで体をふいてあげました」
「なんてばかな!母子には手をださないで、そっとしたいようにさせておくってことが大切なんだ。母ヒツジはあんたがたの手のにおいが嫌いでな。そんなにおいがついた子ヒツジは、自分の子とは思えなくなってしまうんだ」
テリーはしばらく考え、再び貴重な知恵を伝えてくれました。
「それではな、まず母ヒツジに、もう一度たっぷり水を飲ませろ。食べ物はいらない。こんな時は食べないしな。それから切れるナイフで、母ヒツジの耳をすっと切ってな、血をぬぐい取る。そいつを子ヒツジの体にこすりつけろ。それから今度は、母ヒツジの鼻の穴にな、ほんのちょっと傷をつける。ほんのちょっとだぞ。
血がぽろっとでる。そうしたら、一人がイヌを一匹連れてこい。どんどん近づけて、母ヒツジが犬のにおいをかぐようにするんだ。そこんとこで、もう一人が、子ヒツジの鳴き声をまねてミューッて、ひと声たてるんじゃ」
血を流した母ヒツジはイヌへの恐怖から、子ヒツジを守ろうとする母性本能を刺激されたのでした。母ヒツジは子ヒツジに近づき、イヌから守ろうとしました。
この瞬間、母子をへだてていた、見えない壁が取りのぞかれました。その日、暗くならないうちに、母ヒツジは子ヒツジに乳をあたえていました。そして夜には、母ヒツジに体をくっつけて、子ヒツジはあたたかそうに眠っていました。
いかがでしょうか。見事な指導です。
整体をやるものにとっても、大変興味深く、示唆に富むエピソードです。
ここには、指導や治療というものは相手の中から喚び起こすもの、という基本があります。
このアメリカ開拓農民テリーは、その後も沢山のことをシートンに教えてくれたようです。
そしてこのシートンとは、言わずと知れた「動物記」のシートンです。
そしてこのシートンとは、言わずと知れた「動物記」のシートンです。
シートンによれば、難産の原因は
食べ物でふくらんだ雌ヒツジの胃と腸が、陣痛の発作で後方に押され、産道を圧迫したため、子ヒツジは子宮から出られなかったのです。ヒツジをひざまずかせて体を立てれば、胃と腸は下がって、少し体の前方に動きます。そして産道は自然に開き、次の陣痛で分娩できたのです。
ということだそうです。
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